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イルカはアカデミーの教師になる前から狐子を、ナルトを庇護する者だったという。
ナルトは九尾を封印する大切な器。
人としての暮らしを認めつつも、里はナルトを監視下に置いていた。
九尾の状態を観察するのも一つの目的であったが、主たる目的は里民からナルトを守るためだった。
ナルトを九尾自身と認識する里民が少なくなかったからだ。
家族を、友人を、大切な人間を失った悲しみ、怒りの矛先は九尾の事件の記憶の欠片も持ち合わせない幼子にしばしば向けられた。
暗部の監視が付く他に、表立っては中忍になったばかりのイルカがナルトの世話をした。
忍の間では狐子に暗部の監視がついているのは公の事実であったので内心はどうあれナルトに手を出す者はいなかった。
しかし、里民は暗部の監視などに気付かない。
暗部にしてもよほどナルトが命の危険に晒されでもしない限り表には出てこない。
そうなると矢面に立ってナルトを守る存在はイルカしか居なかった。
幾ら九尾の器といえ、幼子に手を出す罪悪感を抱く者もいただろう。
忌々しい狐子を守る存在のイルカに憎悪が向けられる事も多々あった。
イルカは黙ってその向けられる憎悪と与えられる暴力に耐え続けていたのだという。
その事をナルトには全く悟らせなかった。
ナルトに向けられる悪意を全て防ぎきる事はできなかったであろうが、ナルトがああも真っ直ぐに育つ事が出来たのはイルカがナルトの盾になっていたからだ。
そして、事件は三年前に起きた。
その頃にはアカデミーの教師になっていたイルカは、深夜の帰宅途中に襲われた。
その気配は忍の物ではなく一般人のそれだったのでイルカは無抵抗に暴行を一身に受けたのだそうだ。
相手は深く酒に酔っていた。
九尾の事件から10年もの歳月が流れ最近では里民からの暴力を受ける事自体が殆ど無くなっていたのだが、その夜のイルカに対する暴行は執拗に行なわれた。
相手の男はイルカの片腕を折り、助骨を折った。
折れた助骨はイルカの肺を突き破った。
更に男はイルカの上に馬乗りになり首を締め上げてきた。
たまたまその現場に居合わせたアカデミーの職員が止めに入ろうとした時、イルカは正確に男の心臓にクナイを突き立てた。
男は即死だった。
イルカはそれから数日間意識が無く、生死の境を彷徨った。
意識を手放す直前の行動は無意識のものであったのだろう。
一命を取り留めたイルカは告げられた事実に愕然としていたそうだ。
しかし、男を殺さなければ死んでいたのはイルカであったのも事実だ。
正当防衛が当然に成り立つ。
男の家族はイルカを責めることは無く、逆に打ち震えながらイルカに頭を下げたという。
その後完全には回復できず、心肺機能が低下したイルカは里外の任務を請け負えない身体になった。
上層部は今まで通りアカデミーの教員を続ける事をイルカに言い渡した。
イルカの罪は問われなかった。
イルカを責める者は誰もいなかった。
「その事がかえってイルカを追い詰めたのかもしれぬな」
痛ましげに火影は瞼を閉じた。
それからナルトと同じく、イルカにもしばらく暗部の護衛がついた。
イルカが負傷した所為でナルトのチャクラの状態までが不安定になっていたからだ。
だが、しばらくして護衛の暗部がイルカの異常に気が付いた。
仕事はアカデミーでの物しかないというのに、イルカの身体に傷が絶えない。
厳しい監視のもとに置かれており、何人もイルカに手を出すことは出来ないはずだった。
イルカはいつからか自傷を繰り返していた。
イルカの身体には癒えきれぬ無数の傷があり、中には神経を傷つけているものもあった。
イルカは再び病院に収容され、今度は専属のカウンセラーが付いた。
それからイルカが教職に復帰するまで数ヶ月の時間を要した。
「誰か、この話の中で責められるべき者は居るか」
「・・・・いいえ」
守るべき里民を手にかけてしまったイルカの苦悩は相当なものであっただろう。
自分のように忍を相手に命をやり取りする、もしくは相手が一般人であっても任務の依頼を受けて命を奪うのとは話が違う。
「ここしばらくはイルカの状態も安定していたのだがな」
無言で一礼してカカシは執務室を後にした。
イルカは清潔なベッドに身体を横たえている。
眠りの中でさえもイルカはきつく眉根を寄せて苦しげな表情を浮かべている。
優しいアカデミー教師。人の良い同僚。
罪の意識に苛まれつづけ、それでも周囲の期待する役回りを演じてきたのだろうか。
「馬鹿だね・・・」
誰にとも無くぽつりと漏らした言葉はイルカの耳に届いたようだ。
ゆっくりとイルカは瞼を開いた。
「すみませんでした・・・」
「そんなこと少しも思ってないでしょ?二回も続けて人の部屋で騒ぎ起こしてさ」
諦めたように笑いを漏らすカカシを見てイルカの肩の力が少し抜けた。
鎧のように頑丈に張り付いた笑顔も、ピンと緊張して纏わりつく狂気寸前の恐慌も全てが綺麗に剥がれ落ちて、今カカシの目の前には少しの構えも見せずに素直にカカシに対峙するイルカが居る。
ベッドの脇のパイプ椅子に座りなおすとカカシはイルカに訊ねた。
「どうして俺に近付いたの」
「・・・・あなたなら」
「うん」
「あなたなら、俺が欲しかった物を、くれるかもしれないと・・・・・」
「・・・今まで、辛かった?」
コクと、イルカの喉が鳴った。
イルカはまだ言いあぐねている。
カカシは急かす事なくイルカが口を開くのを待った。
「辛いわけ、ないじゃないですか。俺は罪を問われる事なく、恩赦を与えられて。教職にも復帰を許された」
「そっか・・・」
「俺は、恵まれているんです。だから・・・辛いだなんて、言える訳がないでしょうっ・・!早くもとの自分に戻らなければ周りに迷惑をかける。笑っていなければ余計な心配をさせる!」
「でも、あんた。俺の前じゃ笑ってないじゃない」
イルカは目を見開いて声も無くカカシを凝視する。
気付いていなかったのだろうか。
カカシが思い浮かべる最近のイルカはいつも口を引き結んで張り詰めた泣き出す一歩手前の顔をしている。
「うん、いいよ。俺の前でなら笑わなくていい」
イルカの唇が戦慄いて、やがてカカシを見据えたままの瞳から絶える事なく涙がこぼれ始めた。
噛み締めた口元から嗚咽が漏れだす。
「俺から何が欲しい?」
「罰を・・・。三年前に受けるはずだった、人の命を奪った罰を・・・・」
「・・・うん、いいよ」
貧血が回復せず動けないイルカをカカシは腕の中に抱き上げると、片付けもされていないイルカの血で汚れたままの部屋に帰った。
寝室の中の唯一の家具であるベッドにカカシはイルカを横たわらせた。
「いくらでもあんたの言う事を聞いてあげる」
ベッドの脇に腰掛けながらカカシはイルカを見下ろした。
イルカはなんとも安らいだ表情でカカシを見上げる。
「ありがとうございます」
イルカはすぐに浅い眠りの中にまどろみ始めた。
自分ではイルカを日の光の中に救い上げる事は出来ない。
けれど、
「あんたがいる所まで堕ちてあげようか?」
それなら自分でも出来る。
自分がイルカを引き寄せたのだと思った。
でも抗えない引力に引き寄せられたのは自分の方かもしれない。
あなたなら、と。
イルカの心からの声は甘くカカシを縛り上げて、気が付けば引き返せないほどに囚われてしまっていた。
「不用意に踏み込んできたあんたが悪い」
最初は迷惑だとしか思えなかった。
だが何故なのか、一度懐に飛び込んできたイルカをカカシは手放す気にどうしてもなれない。
人を殺めた罪の意識に苛まれる者同士。
イルカでなければ、カカシの心の闇を理解できない。
カカシでなければ、イルカの声無き悲鳴を聞き取る事が出来ない。
寄り添ってみた所で。
お互いに抱える罪の意識はこの先も消えないだろう。
でも体温を与え合う事ならできる。
カカシは、意識が無いイルカの衣類を一枚ずつ剥ぎ取っていく。
服の下の肌は案外白く、内勤の忍にしてはバランス良く筋肉が付いている。
イルカの足を思い切り開き、身体を折り曲げさせてカカシはイルカを一息に貫いた。
「あ・・あ、ああ・・・」
イルカの尻の間を鮮血が伝った。
かなりの痛みだろうが、意識が朦朧としているのか、痛覚が鈍っているのか、イルカの口からは小さな呻き声しか出ない。
鮮血が潤滑剤となり引き攣れる皮膚のすべりを滑らかにする。
機械的にカカシは昂ぶった性器をイルカの尻の間に出し入れする。
「うぁ・・あ・・」
ズチャズチャと粘着質の音が響き、イルカの浮いた尻の下にはジワリと赤い染みが広がり始めた。
「痛いほうが、いいんでしょ」
自分の欲望を開放するためだけに腰を振り、一際最奥に腰を打ち付けるとカカシは最後の一滴までイルカの中に白濁の液を吐き出した。
罪の意識が薄れるほどの痛みと苦痛をイルカが望むままに与えてやろう。
イルカはカカシの罪をも背負うと言った。
だが、この先イルカを傷つける度にますますカカシが償うべき罪は増えていく。
それでもいい。
イルカが僅かな時間でも心の安寧を得る事が出来るのなら。
そして、イルカが自分の心の軋む音を聞いてくれるのなら。
それだけでいい。
意識の無いイルカの口を塞いで、襲われる激情に身を任せてカカシは散々にその口内を嬲った。
貧血の上に体力を削られてイルカは長く眠りから覚めなかった。
『毒になるか、薬になるか』
二人の道筋は不透明すぎて、その先を見通すことなど出来なかった。